新型コロナウィルスによる「心の崩壊」の深刻化 (2020.04.19)

本日のTBSテレビ『サンデーモーニング』に、インタビュー出演しました。
内容は極めて重要なので、補足します。

新型コロナウィルス問題の解決そのものと、同時にその影響をいかに食い止めるかということが人々の関心であり、メディアの関心である。

経済的不況をどう回復させるか、それが緊急のコロナ問題の解決とともに議論される。
政府はリーマンショック以上の景気対策をするということを、毎日のように同じように言い続ける。

これら緊急の課題をどう解決するか重要でないと思う人はいない。
しかし重大なのは、経済的不況回復だけではない。

不況をどう解決するかとリーマンショクを例に出しながら議論することが重要でないという人はいないだろう。

しかし極めて重要で、かつ極めて深刻で、かつ極めて長期的な問題には、気がついていない。
それが、これらの問題の後に来る「心理的崩壊」である。

小学生が食事をするのに、ついたてを立てるというような、人との接触をどう少なくすることが、10年後にどのような現象として現れてくるかということが議論されていない。報道は、こう言うことをして、こう言うようになっていると言う現象の報道だけである。
それよりも、そもそもそういうことの影響の重大さを気がついていない。小学生の年齢は、人と接することを学ぶことでコミュニケーション能力が育成される。

様々な影響が議論されるが、経済的不況の問題などに比べて、「心理的崩壊」の問題の本質は議論されていない。
今後の日本の危機の問題の中で、危機に気がつく順番は最も遅い。
人との接触を8割減、それが重要であることは誰も否定しないだろうが、小学生にあたえる心理的ダメージ、10年後20年後の深刻な影響がどうあらわれるか。

すでにドメスティック・バイオレンスやコロナ離婚が言われる前に、コロナ問題以前に、心理的な危機は現れている。

会社では、パワー・ハラスメント、過労死問題、
家庭ではドメスティック・バイオレンス、モラル・ハラスメント、幼児虐待問題の増加、
学校では、いじめ、不登校問題などなど、
社会的には、ギャンブル依存症者、アルコール依存症などの依存症問題。

この問題が今の段階では、まだ社会的な問題である。つまり社会の中での問題にとどまっている。今後でてくる問題の深刻さに気がつかないで、経済的不況にばかり気をとられると、社会の中のトラブルが、社会の外にいる人とのトラブルになる。

つまり、社会が社会として成立する根源的原因である「共通感覚の喪失」が起きて来ざるを得ない。
具体的に言えば、「なんで人を殺していけないんですか?」という犯罪が増えてくる。ストーリーなき犯罪が増えてくる。
「てめえ等ぶたや牛を殺して食ってるじゃねーかよ」
少年犯罪者が刑事にふてくされた言葉である。

パーソナリティーは、一定の段階を経て成熟に至るものと考えられている。パーソナリティー障害のいろいろな型は、どこかの段階で起こった停止に起因する。
コロナ問題解決のために必要な仲間同士の接触自粛が、小学生同士の食事でのコミュニケーションの喪失で、パーソナリティー発展の停止の起因にさえなる。

人間関係の挫折、コミュニケーションのトラブルは、すでに今の社会の深刻な問題である。
孤立した人間は、他の人々と確認された関係を結びたいという欲求と願望を無意識に持っている。

不安な親の側は、子どもに従順を強制して子どもの心を滅ぼす。
ことに、もともと攻撃的性格の親の場合は深刻である。
幼児や子どもを攻撃することで不安の感情処理をおこなう。

不安の心理を回避する一方法として、敵意と攻撃を用いる。
ロロ・メイの言うごとく、もしわれわれが、他人を自分自身の意志に従わせる以外に、不安から救われ得ないとなれば、不安を和らげる方法はどうしても、本質的に攻撃的とならざるを得ない。

子どもが自分の意のままにならないと、自分が不安になる。その不安から敵意ある攻撃性で反応する。
親は不安だから、子どものふとした言動で自分が拒否されたと感じて不安になり、敵意ある攻撃性で反応する。
相手を「やっつける」ことで得られる安心感は一時的なものだからである。そこで、いつも安心しているためには、いつも相手を攻撃していなければならない。
攻撃をしながらも心の底では、相手との結びつきを求めている。

攻撃の裏で安心を求めている様な攻撃の特徴は、些細なことでも攻撃がおこなわれるということである。

不安と劣等感と敵意は深く結びついて、その人のパーソナリティーを形成している。

子どもの側からいえば、依存と頼りなさの過度な感情を持ちながら不満になり、自分が依存している人々に対して過度な敵意感情を無意識にもつ。
そこに現代の競争文化が、敵意を生み出し、消費社会の文化がさらに自己疎外をもたらす。
こうした様々な要素がいっそう多くの不安を生み出す。

TBSテレビ『サンデーモーニング』の新年の特番で、現代の世界の「幼児化」についてふれたが、今回の日本の政府のコロナ対策を見ていると、まさに日本人の幼児化が表面化している。
何よりもナルシシズムである。自分たちのナルシシズムに沿うように現実を解釈する。感染者の数字が少し良くなると「大丈夫だろう」という気持ちの緩みがでる。
つまり自分のナルシシスティックな願望に従って現実を解釈する。
自分にとって都合の良い解釈をして、それにしたがって政策をとりながら、「専門家の意見」と言う合理化をする。心理的な問題を抱えている人の意見が力を持ってしまう。

自己実現している人は、優れた現実解釈をするとマズローはいうが、自己疎外された人の現実解釈では、不安な状況の現実を解決できない。
不安に対する生産的な対応がコミュニケーションするということであるが、それが今の日本ではできない。

 日本は今、蒙古襲来以来の危機である。

緊急の課題を解決しようとすれば、緊急の課題解決としては正しくても、10年後、20年後の心理的崩壊という深刻な問題を促進してしまう。

ヘーゲル哲学が言うように、歴史上難しいのは正しいことと正しいことの矛盾である。
今、日本はそこに直面しているが、それに気がついている政治家と財界のリーダーはいないようである。

なによりも問題は、経済的危機を叫ばれているが、
心理的危機が急速に促進されていることに気がついていないことである。

関連著書『心の免疫力 「先の見えない不安」に立ち向かう』