17. 信じあえる人間関係−“あなたを大切にしたい”という言い方(『「やさしさ」と「冷たさ」の心理』)

『「やさしさ」と「冷たさ」の心理』より

自己実現的関係において大切なのは、「私はあなたをこんなに好きだ」ということより、「私はあなたを大切にしたい」ということではなかろうか。「私はあなたを大切にしたい」という言い方には、ナルシストのにおいがない。これは受け身ではなく能動である。

自分を大切にしない人間は、相手を大切にできない。従って、自己実現的人間も相手に「私を大切にして」ということは、要求として出るであろう。

「私はこんなにあなたを好きだ」「私はこんなに犠牲を払った」という言い方で、相手の愛を要求するのはナルシストである。しかし「私はあなたを大切にしたい」「私を大切にして」という言い方は、幼児性を脱け出した大人の言い方ではないかという気がする。

このような言い方ができるとすれば、お互いに相手を信じ、信頼することができるに違いない。友情であれ、恋愛であれ、自分のなかに自然に湧いてくる感情に身をまかせても、何も悪いことが起きない、と思えることが安心感であろう。自然の感情に身をまかせても何も危険なことはない、そう感じられてこそ、心と心の結びついた信頼の人間関係と言えるのではないだろうか。

そして、そうした安心感の上に、人間は自分のなかにひそむ能力を十分に開花させることができるのである。