● 年頭所感(2020)「現代は、歴史の岐路 〜隠された幼児化が表面化〜」

あけましておめでとうございます。
今年が良い年であることを願って、年頭所感を述べさせていただきます。

※無断転用禁止※

100年後から現在を考えると、この数年は歴史の岐路に立たされていると思われるのではないかと私は感じています。

冷戦の時代が終了したかに見えた。
 ダニエル・ベルが「イデオロギーの終焉」(1960年)を書きました。
1973年、私はハーバード大学にいました。多くの学生たちはダニエル・ベルのゼミをとろうと必死でした。

 1968年プラハの春と言われた時がありました。当時私は、『サンデー毎日』の若者の取材でヨーロッパにいました。若者たちは興奮していました。そしてベルリンの壁崩壊。
それらは歴史の流れの変化を感じる時代でした。「冷戦終息か?」に見えた。

 しかし、その裏で人々の心の中では幼児化が、隠れて進んでいたようです。

幼児性は偽装がうまい。
今の○○ファーストも、日本の少子化や子育て政策の失敗も、偽装された幼児性がそのような形で表に現れてきたものです。

所得は増えるし、技術は進歩するけど、人びとが幸せになっているわけではない。
事実この間に所得は増え、先端科学技術は進歩し多くの人は様々な恩恵をこうむったであろうが、人びとはより幸せになっているわけではない。

かつて未来学者のハマーン・カーンが21世紀は日本の世紀といった。
ところが今ではこんなことを信じる人はいない。
未来学者が、21世紀は日本の世紀と言っている時に、隠されたところで進行していたのは、日本人の心の幼児性である。
そして今、その隠された幼児性が、少子高齢化となって表に現れてきた。

国の安全は、「優越からコミュニケーションによって」もたらされるという時代が来るか、に見えた。
ところが、それが現代では逆行していることが表で見えるようになった。
軍縮から軍拡へ。それぞれの大国の領土拡大。

歴史の成長が逆行するのは、日本でも同じである。
典型的には少子化政策、子育て政策の打ちつづく失敗。
その失敗の原因は、少子化の裏に隠されたナルシシズムがある。
なぜ子育て政策が失敗するか? つまり、歴史の成長と逆行する理由は?
それは、結婚は愛の実現ではなく、束縛であり、子育ては負担の増大と思えるから。
つまり日本人がナルシシストになったから。
いくら子育て政策をしても、それが成功しないのは、「隠されていた幼児性が、少子化という形で表に現れた」からである。
隠されていた幼児性が、表に現れてきた典型的な例である。

アメリカ、イギリス、日本などと地域は違っても、中東も幼児化した。その典型がテロ。
 フロムの言うごとく。テロは、母親固着の、最後の病理的段階である。テロは幼児性の間接的表現の典型的な例である。

今の世界において、人々は、情報化社会の技術的発展のスピードについて行かれなくなった。
歴史の発展はアンバランスになっている。

パリ協定離脱、シリア撤退などトランプ大統領をはじめとする政治家の、視点の少なさ。
「特か損か」と言う、恐ろしいほどの視点の少なさ。
指導者の「視点の少なさという幼児性」が、国民の隠されていた幼児性を刺激した。
指導者の幼児性が、国民の幼児性に共感する。視点の少ない指導者に、心理的に幼稚な市民の指示が広がる。個性化の過程に失敗して、心理的には大人になった幼児からの支持があつまる。

 その裏で隠れた幼児化が進んでいた。

所得は増えるし、技術は進歩するけど人びとが幸せになっているわけではない。
事実この間に所得は増え、先端科学技術は進歩し様々な恩恵をこうむったであろうが、人びとはより幸せになっているわけではない。

幼児性は偽装がうまい。
○○ファーストも、日本の少子化や子育て政策の失敗も、偽装された幼児性がそのような形で表に現れてきたに過ぎない。

今の世界は、一口に言えば「成長を拒否する世界」になった。成熟拒否の世界である。

トランプ現象の意味
 トランプの唯一の信念は、経済的利益の哲学であり、今までの民主主義的価値観の否定である。

アメリカ独立についての「エマソンのコンコルド賛歌」の、「レキシントンの一ッ発の銃声が世界を回した」と言う言い方を参考にして言えば、トランプの絶望が世界を変えた。

アメリカ・ファーストだけに反応し、世界に責任を持たなくなっている。
アメリカの大統領が、世界にたいして何らの連帯感や義務感を持たない。

 アメリカが歴史上初めて楽観主義から悲観主義に変わった。

アメリカ・ファーストは、偽装された攻撃性である。そこが理解しにくいので、何が起きているかがトランプ自身をはじめ多くの政治家も理解していない。

 心理的重病人が世界のリーダーになってしまった。

 神経症と精神的健康の基準は社会とは無関係なのです。「註、George Weinberg, The Pliant Animal」

 「疎外された世界の範疇では、健康だと考えられている人間自体が、人間主義の立場から見れば重病人だと思われるのだ。」「註、Erich Fromm, the Sane Society」

トランプに権力への意志はあるが、意味への意志がない。

トランプ現象は世界に、人間の精神性が失われつつあることを示しいている危険な現象である。
トランプ現象は、世界が矛盾を解決しようとする試みの挫折である。

トランプの唯一の信念は、経済的利益の哲学であり、今までの民主主義的価値観の否定。民主主義的人間の否定。彼の哲学は、否定の哲学です。

おそらく、トランプは心理的には心の底で自分に絶望しているに違いない。

 トランプ大統領には、EU統合の時のような政策目標の中核的理念が見えない。
いかにして人間が救済されるかの哲学もない。
哲学的なことまで行かなくても、単に経済的なことでも租税回避など今こそ国際協調が必要な時代である。それが逆行している。

アノミー的人間は、「世界とのつながりをもぎ取られてしまった人、何らの基準をもたず、ただ不統一な衝動をもつだけの人」である。

 退行欲求は、保護と安全の希求である。負担から逃れようとする渇望である。

トランプ現象に続く現象は、今の世界は自らの矛盾を解決しようとする試みが次々に挫折していることを示している。

 その原因は、人間の退行欲求である。

 この恐ろしいほどの富の偏在を作ったのも、富裕層の退行欲求でしかない。生きて居ることに意味を感じていれば、これほど愚かな富を築かない。もっとまともな生産的な生き方をしている。

Tax Heaven等は、富める者の絶望感を表す以外の何物でもない。
強迫的に富を追求した人々の隠された真の動機は、「自分達の人生には意味がない」と言う恐怖から眼を背けていたいということです。「自分達の人生には意味がない」と言う恐怖感を無意識に追いやり続けるためには、富を追求しつづけなければならない。

今、反発される既成の政治を作った人も、反発している人たちと同じ動機である。
おそらく今歴史上初めて、アメリカが楽観主義から悲観主義に変わった。

 今の世界は、「分断とか格差」とか表面的なことに気を奪われているが、本質的なことは、人々がコミュニケーション出来なくなったことである。
人生に対する絶望という隠された本質が、表面に現れた「分断とか格差」である。
 世界とのつながりを失って、生きる意味が分からなくなった人たちである。

経済的生活の改善が意識された目的ではあるが、その意識された目的の裏に、隠された真の目的があり、それは「生きている意味」を求めることである。

富める者も、貧しい者も生きる意味が分からなくなったことです。
そこで過激な政治行動に意味を見いだそうとしている人たちが出てくる。

「偉大な」アメリカ、「偉大な」イギリスと言う。イタリアのことはイタリアで決める、と言う。
そう言う言葉に動かされて行動しているときに、表面的には、自分の活動に意味を感じる。

 経済的生活の改善が意識された目的ではあるが、その意識された目的の底に隠された真の願望は、「生きている意味」を求めることである。

 母親を独占しようとするのは、自我が確立していく過程での幼児の必死の努力である。自分の国を大切にすることは望ましい。必要なのは、それをさらに大きな共同体へと成長へと導くことである。
残念ながら、その最後のところができていない。

「分断」は何を意味するか。
成長とは統合のことである。心理的統合性が心理的健康のメルクマールである。
 異文化とコミュニケーションできるということが成長である。
逆行がナルシシズム、幼児性である。
負担を逃れたいと言う無意識の願望と、意識の上での独立への願望との葛藤である。その心の葛藤から目をそらしているのが、ベラン・ウルフのいう、安易な解決である。

 富める者は生きている意味を見失って、自らの無意味感から目を背けようと強迫的に富を求める。富を得ても、得ても心の乾きはますばかり。
 貧しい人々はコミュニケーション能力を失って生きている意味を見失った。
絶望が新しい世界への入り口であるためには、「再社会化」という方法を模索する必要がある。
 しかし、絶望は新しい世界への入り口である。今年こそは希望の年でありますように。

「分断」の意味
視野の狭い政治家は、国内の支持を集めるために、「体内結束と対外排斥の同時性」のルールを使った。かつては国内の矛盾を外に向けるために使われたルールが、国を分断して自分への支持を集めるために使われた。

 不満は実存的欲求不満である。その不満は偏見、差別を助長する。偏見のある人は不満な人であるとオルポートは言う。

 攻撃性は安全なところに向けられる。「悪いのは移民」と、移民排斥に、日常生活の様々な不満を移民に向ける。
 アドラーによれば、移民第1世代は、犯罪は少ないと言う。
攻撃性の置き換えである。日常生活の不満を移民問題に置き換える。

科学技術の進歩により便利さが優先され、生活の意味が失われた。

その生きることの虚しさを埋めようとするから、次々に新しい刺激が欲しい。自発的な関心がないままに新しい刺激が作り出される。
それは完全に受身の願望で生きられるという幼児性の世界である。

見えないところで進行し、隠されていた幼児性という本質が、○○ファーストという形で世界の表面に現れてきた。

経済的なことのようにすぐに数字で現れてくる現象と違って、その裏に隠されている心理的な本質は、理解できないままに進行する。

今の混乱した世界は、隠されていた本質が○○ファーストという形で、現れてきた世界である。

 隠されていた本質や矛盾は、今の世界の変化に現れてきたのだが、さらにその背後の隠された原因は「生活の便利さ」である。

 それはまさに日常生活と世界の情勢とが繋がっている箇所である。

イギリスのEU離脱騒動は、何を意味するか?
 イギリスはEU離脱ではなく、連帯感を持った民主主義価値観の世界から離脱したのである。
 共通の価値観を持った世界からの離脱である。

 イギリスのEU離脱は、経済的・政治的意味だけではない。EUは能動的市民と言う新しい民主主義的人間を目指していた。
 能動的市民社会性「註、active citizenship」は、EUの共通理念である。

 グローバル化の副作用を中和するには社会的包摂が不可欠だと解される。
 グローバリズム化すれば、そこに社会から取り残される人々が出てくる。そこで能動的市民社会性は、グローバル化時代における最も重要な政策理念の一つとなっている。
 イギリスのEU離脱は、その「能動的市民社会性」というEU的な政治理念の挫折である。

アメリカも同じ。
独立戦争で、人権という人類の行くべき道を切り開いた。

アメリカもイギリスも、「成熟か退行か?」という歴史の大勝負の舞台で、隠されていた幼児性という本質が現れた。

 アメリカは最大の軍隊を持っているとトランプ大統領はいう、過去の偉大な自己イメージに固執して、歴史の成長に逆行しようとしている。
どこの国にせよ「隠された幼児性」という本質が、様々な諸現象を通して表に現れた。
その裏には、急速な科学技術の進歩がある。

 テンニースのいうように、人類は共同体から機能集団へ進んでいく。

生活の便利は理解できるが、コミュニケーションの意味は理解できない政治家達が多い。

今までは、アメリカは自由を守るという使命を持っていたし、他の国々もアメリカに守ってもらいたいという相互性が、歴史の成長だった。
 その「相互性」が失われて、心が崩壊した。
 We feeling の崩壊。実存的欲求不満。
 その根源は、共同体の崩壊である。便利さが実存的欲求をしのいだ。

歴史の成長の流れを間違えた各國。

 イギリスはすでに大英帝国として対外発展をした国である。
次は対外発展から「内的成熟」へ向かうのが歴史の成長である。
その成熟した社会の具体的内容は、グローバル化に伴って排除された人をも内包する社会を目指すことである。
異文化への理解と、コミュニケーションである。

 市民の意識は、積極的能動的市民になることである。

 内的成熟を目指すことが、新しいイギリスへと変わることであり、イギリスの真の成長である。
ところが、イギリスもまたイギリス・フースト。
EU離脱は歴史の逆行、退行である。
EU離脱は成熟拒否、要するに幼児化。

 イギリスは過去の誇大な自己イメージに固執した。大英帝国の過去に固執した。
イギリスのためのイギリスと、世界の中のイギリスと二つのギリスを「統合」することで、イギリスは真に成長したのに、残念ながら 今は逆行した。

生活の便利は理解できるが、コミュニケーションの意味は理解できない政治家達。
今までは、アメリカは自由を守るという使命を持っていたし、他の国々もアメリカに守ってもらいたいという相互性が、歴史の成長だった。
その「相互性」が失われて、心が崩壊した。
We feeling の崩壊。実存的欲求不満。

 その根源は、共同体の崩壊である。共同体の崩壊が人間にいかに大きな影響を与えるかに気がつかないままに、共同体の崩壊は進行した。
共同体を維持するのは大変なことである。便利さの魅力に勝てなかった。
便利さへの欲求が実存的欲求をしのいだ。

現象の背後に隠された本質
今の世界は、今まで隠されていた幼児性が、それぞれの国で、それぞれの形で、表にあらわれてきた。
今の世界は、一口に言えば「成長を拒否する世界」、成熟拒否の世界である。

 イギリスのEU離脱、日本は少子高齢化、子育て対策の失敗、アメリカのアメリカ・ファースト。
これらの諸現象はイコール歴史の逆行である。

 2019年、2020年、2021年あたりは人類の歴史の一つの転換点になるかもしれない。今までの成長の歴史が、逆行して退行に向かうかもしれない。

 生活は便利になる。しかし心は不安になる。
この急速な技術革新に、人々の心が対応できなくなっている。

 人々は疲れ果てて他者への積極的感情を失っている。

 歴史はバランスを保って成長しない。

なぜそうなったか
「それにふさわしい努力を」しないで、「それを手に入れたい」が幼児的願望である。
コンビニで美味しくて安い弁当が手に入るかもしれないが、「おふくろの味」が失われた。
生活は便利に安易になったが、食事時のコミュニケーションが失われ、心の支えがなくなった。
美味しくて安くて手に入れやすくて、便利だけれども「おふくろの味」が失われた。つまり心理的成長の機会が失われ、幼児性が隠されたところで深刻化していた。

 便利さを手に入れる代わりに、生きる意味が失われた。

 それにふさわしい努力をしないでその場で手に入る、それが幼児の欲求である。

 科学技術の進歩による生活の便利さの陰で隠されていた幼児性の本質が、トランプ大統領の○○ファーストなどなどという形で表面化した。

生きている意味、たのしさを奪っていく便利さは、人間の潜在的可能性の機会も奪う。
世界と人間の関係が変わる中で、隠れていた心理的成長の危機が、生活の無意味感、実存的欲求不満と言う形で表面化した。

 今、軍拡競争、移民排斥をはじめ様々な現象は、まさに隠されていた世界で進行化していた心理的幼児性が、そういう現象として表面化してきたということである。

 冷戦構造の変化という成長の現象に注意を奪われている間に、その裏で進行していた心理的幼児化が深刻化していた。
全員心理的葛藤を抱えている。それぞれが心理的に未解決な問題を抱えて身動きができなくなっている。

現実が辛くなっている人が陥りやすい世界の現象。それが幼児性であり、解決としての優越である。具体的例としては領土拡張と軍事的優越。

 せっかちな問題解決。待てない。それが幼児性である。

 今、人類は問題解決能力を問われている。

※無断転用禁止※