はじめに
日本の現状は心理的に言えばとても健康とは言えない。それどころか最近の日本の心の病は世界最悪とさえ思われる。子供のストレス性潰瘍の増加、登校拒否、家庭内暴力、シラケ、いじめ等など言われている心理的な問題は限りがない。
今の日本では肉体的な病、例えば伝染病、寄生虫病は半減していわれる。それに対して心理的な問題、つまりストレスと関係があると考えられる疾患が増加している。
今では病と言えば肉体的なことよりも心理的なことの方が重大な問題と考えていいのではないか。例えば大学で病が原因で休学、退学する学生の8割、9割が精神衛生領域の疾患が原因であると言われる。つまりここでは病と言えば肉体的なことよりも心理的なことの方が数としては圧倒的に多い。そして休学、退学にはいたらなくてもキャンパスの症候群といわれる様な様々な心理的問題がある。頭痛に悩まされている、吐き気がする寝つきが悪い、人と付き合うのが苦痛、無気力、試験が迫ると下痢をする等などの心理的現象である。
大学を卒業しても、勤労意欲が無い、会社に行きたくない等の職場恐怖症と言われるようなことがまた言われる。国際競争力が強い日本の企業であるが、そこで働く人の心理的適応は、国際競争力の弱い外国の企業で働く人の心理的適応よりはるかに悪いのではなかろうか。つまり今の日本は心理的病のオンパレードなのである。
第一章 世界で最も、心理的に破綻してしまったのが日本の若者
よく読者から手紙をもらう。自分はかくかくしかじか小さい頃から頑張ってきた。だが今になって不安で夜も眠れない、何か吐き気がする。頭痛もする。「何か自分は間違っていたのでしょうか」と聞いてくる。日本人は真面目で真剣に努力しているが報われない。日本人は諸外国の人に比べて燃え尽き易い。
残念ながら世界で最も、心理的に破綻してしまったのが日本の若者であろう。今の職場にも居たくないし、今の所に住んでも居たくないし、家族と居てもつまらない。でもそこに居続ける。日本の若者は、世界で最も神経症的傾向の強い集団である。
つまり努力が報われないけど、仕方なく努力を続けると言う燃え尽き症候群型若者が日本の若者である。それぞれの領域について諸外国の若者と比較してみよう。
「1」職場生活の心理的崩壊。
職場生活での満足度はもちろん世界最低である 「註、日本の青年、世界青年意識調査「第四回」報告書、総務庁青少年対策本部、平成元年一月、37頁。これは世界11箇国の青年の意識調査である。」 日本は11.2%。アメリカは64.3%である。世界で最も働いていないと言うのではない。この数字は働いているけど満足がないと言うことだろう。
「日本人はアメリカに比べて同じ職場で働き、忠誠を尽くす」と言うのは心理的な側面から言えばあたっていない。アメリカの若者の方がはるかにずっと今の職場で今後も働き続けたいと思っている。「ずっと今の職場で今後も続けたいか?」と言う質問について日本の若者は26.2%で世界最低である。アメリカは57.6%。「変わりたいと思うことはあるが、このまま続けることになろう」と言う無気力は世界でダントツの一位である。日本は25.3%。アメリカは7.4%。
「一度も転職しない」は世界でダントツの一位で74.2%である。アメリカは22.8%。アメリカというとすぐに転職の国で人々は職場に満足していないと言うイメージをもつがそうではない。日本人の方は転職したいけど、実際には転職しないで、満足しないまま今の職場に居続ける。
「2」家族の心理的崩壊。
「あなたはどんな時に生き甲斐を感じますか」と言う質問に「家族といえるとき」と言う答えは次のようである。日本の若者は世界最低で21.3%である 「註、日本の青年、世界青年意識調査「第四回」報告書、総務庁青少年対策本部、平成元年一月、67頁。」 次は韓国の42.5%。アメリカは77.8%。
「あなたはどんなときに充実していると感じますか」 「註、日本の青年、世界青年意識調査「第六回」報告書、総務庁青少年対策本部」。日本の若者は世界最低で26.2%である 「註、日本の青年、世界青年意識調査「第四回」報告書、総務庁青少年対策本部、平成元年一月」。フィリッピンは75.5%。アメリカは70.5%。
日本の若者は世界で最も家族と一緒にいても生き甲斐を感じない。世界で最も家庭が心理的に崩壊しているのは日本である。そして悩み事、心配ごとの相談相手は諸外国は母親が一位であるが、日本と韓国だけは二位である。しかし若者の家からの心理的独立は遅い。おそらく夫婦も同じだろう。別れたいけど離婚をしないと言う夫婦は世界で最も多いと推測される。
平成6年「1994年」国際家族年、文部省が行った調査。平日に子供と過ごす時間、日本の父親は、一日平均3.3時間、6カ国中最低。最も長いのはタイの6.0時間。母親はスエーデン「6.5時間」に次いで低い7.4時間。
「3」地域社会の心理的崩壊。
「あなたは将来ずっと今の所に住んでいたいですか」と言う質問に対する答えは次のようである。日本は最低で26.2%。アメリカは47.3%。一位はシンガポールで64.2%。オーストラリアは62.5%、ブラジルは61.0%。今の所に居たくはないけど、そこに居続けるという生活態度である。これも家庭や職場と同じである。嫌だけどそこにいるというものである。
「4」学校の心理的崩壊。
平成元年の発表の財団法人日本青少年研究所の行った日米高校生の中退比較の調査がある。同研究所のニュースレター13号の「学校を辞めたいと思ったことがある」と言う質問に対する結果によると次のようである。小学生は日本17.5%、アメリカ10.4%。中学生は日本23.4%。アメリカ21.6%。高校生は日本37.6%、アメリカ34.0%。アメリカでは25%位が退学する。
日本の高校生は辞めたいと思うが実際には辞めない。不満なままそこにいるというのは家庭、地域社会と同じ心理的姿勢である。
つまり諸外国の若者に比べて日本の若者は「努力は報われないけど、今のままの状態を続けていく」と言う燃え尽き症候群型の発想と生活態度が強い。
第二章 社会的適応性は世界最高であるが、情緒的適応性は世界最悪
これらの数字を見ると何か日本は最近急に変わったと思う人が居るかも知れないがそんなことはない。四分の一世紀前の数字を見ても傾向は同じである。
ここで今まで数字を参照してきた「世界青年意識調査」の1972年11月に実施された調査でも同じことが言える。日本の若者の学校生活と社会生活に対する不満の高さは世界の若者に比べて異常に高い。不満と、やや不満を合わせると45・4%になる。勿論世界最高である。2位のフランスでさえ29%である。日本は就学率が高いと自慢にする時がある。しかしインドの場合にはこの不満は5・7%である。
社会に対する不満になると外国との比較においてさらに高くなる。社会への不満と、やや不満を合わせると73・5%になる。2位のアメリカ合衆国でも35・7%にしかならない。最も低いブラジルでは12・3%である。家庭生活、学校生活、職場生活、友人生活、社会の5つの領域で調査している。社会と学校生活以外の領域においても不満は世界1である。
それでは日本の国の社会が、失業率において、インフレにおいて、治安において、世界最悪か、といえばけっしてそうではあるまい。むしろ逆であろう。
まとめていえることは、日本人の社会的適応性は世界最高であるが、情緒的適応性は世界最低ということではなかろうか。
いろいろと数字をあげて書いてきたが私が言いたいのは、もう私たちはそろそろ格好を付けて生きるのを止めようということである。