子供にしがみつく心理

子供にしがみつく心理

子どもの研究家として名高いボールビーは「親子の役割逆転」と言う言葉を使っている。
 「親子の役割逆転」とは、親が子どもに甘えることであるが、子どもが親に甘えるのが自然である。それが逆転していると言う意味である。
 本来親が子どもの甘えの欲求を満たしてあげなければいけない。それなのに逆に子どもが親の甘えの欲求を満たしてあげる役割を背負わされる。
 子育てで大切なのは、子どもの自慢話を聞くことである。
 ところが子どもが親の自慢話を「凄いなー」と感心して聞かなければならない時がある。これが「親子の役割逆転」である。親が子どもに甘えている。
 親の自慢話を子どもが聞いて褒めてあげる。子どもにとって辛いことだが、これが「親子の役割逆転」である。
 母親が料理を作る。
 子どもが「わー、美味しい」と言わないと母親が不満になる。
 父親が車を買う。
 子どもが「わー、かっこいい」と言わないと父親が不満になる。
 親の自慢話を聞くことが子どもの役割になってしまう。
 つまり本来、親の愛を必要としているのが子どもであるが、親が子どもからこの「必要な愛」を求める。
 こうなると子どもは愛されていないと言うよりも、愛を搾取されている。
 「親子の役割逆転」の親に子育てが出来るわけがない。そこで子育てに失敗して、子どもが問題を起こす。
 すると母親は「子どもにはいつも手料理を作ってあげました」と言う。
 「親子の役割逆転」をしている場合の問題は、親の方が自分は望ましい親だと思っていることである。
 それは親子の一体感が望ましいと思っているからである。しかし子どもが母親に一体感を求めて居るのではなく、母親が子どもに一体感を求めて居る。
 母親は一体感を求める心の裏に不安があることに気がついていない。ボールビーの言う不安定性愛着である。母親は一体感を求める心の裏に子どもへの甘えと支配欲が隠されていることに気がつかない。
 「親子の役割逆転」をする親は、自分が小さい頃に親と一緒にしたかったことを、子供と一緒にしてしまう。親の愛情飢餓感が子どもに襲いかかる。
 小さい頃、家族旅行に行きたかった、でも行けなかった、そこで親になって家族旅行に行く。

 つまり経済的、肉体的、心理的に自立できていない子どもを使って、親は自分の「昔の心のキズ」を癒している。
 子どもは、親のぬいぐるみになっている。
 「親子の役割逆転」をする親は、子どもを「揺りかご」にする。親は自分が子ども時代に十分に揺りかごを揺すってもらえなかった。

 その欲求不満を、自分の子どもで満たそうとしている。

 子どもに「揺りかごを揺すれ」と要求しているのが「親子の役割逆転」である。

 そして「親子の役割逆転」の特徴は、本質的なことが全て隠されていることである。

 「親子の役割逆転」は親の無意識の必要性で子どもを育てることである。子どもは親の心の葛藤を解決する手段になった。つまり子どもにとってはもっとも望ましくない成長環境である。

 基本的欲求とは母なるものを持った母親の愛を求める欲求である。

 この基本的欲求が満たされていないままで親になると,

親は子どもに対して「親子の役割逆転」をする。

  「親子の役割逆転」をする親にとって、子どもが母親になってしまう。

 子どもが母親にしがみつくように、親が子どもにしがみついている。

 ナルシシストが結婚して親になったからと言って幼児的願望は消えるというものではない。親になったら今度は子どもとの関係で自分の幼児的願望を満たそうとする。

 ナルシシストの親は子どもとの関係で自分のナルシシズムを満たそうとする。つまり子どもが親である自分以外の人のことを認めたり、誉めたり、なついたりすることで傷つく。

 それがボールビーの言う「親子の役割逆転」である。

 幼児的願望を満たされていない親は、子どもに甘える。子どもが自分以外の人を誉めると傷つく。そこで怒る。怒れないときには拗ねる。

 これが親の不機嫌である。

 本来親が子どもの甘えを満たさなければならないが、その親子の役割が逆転する。つまり子どもが親の甘えを満たさなければならない。

 親はまず子どもの気持を汲み取ることが大切である。

 子どもは辛くても自分の気持ちを理解されると安心する。そこで気持ちが楽になり、発奮する。

 「親子の役割逆転」では、親が子どもに自分の気持を汲み取ることを求める。

 依存心の強い親はどうしても心に葛藤をもつ。その自らの心の葛藤と言う現実に直面できない。

 「親子の役割逆転」は親が自分の心の葛藤に子どもを巻き込むと言うことである。

 「事件に巻き込まれた可能性がある」と言えば、警察は出てくるが、心の葛藤に巻き込まれたと言う事では警察は助けてくれない。

 「親子の役割逆転」では、親が子どもを攻撃する。

  「親子の役割逆転」をする親は家を造ったが、誰も家に入れたくない。自分の家があるけど共同体としての家族がいない。

出版社: 毎日新聞出版 (2017/3/15)
ISBN-10: 4620323551
ISBN-13: 978-4620323558

前のページ 次のページ