加藤諦三の言葉 第91回 [2002/10/17]

不幸を受け入れる
耐えて強くなる (P.169)
(大和書房)

 シーベリーは不幸を受け入れるという気になると、何をしたら一番いいかということが、突然見えてくると言っている。事実としての不幸を受け入れないから、泣いてわめいて悲惨な状況をもっと悲惨にしてしまうのである。
 悲惨な状況を嘆いているだけでは何の解決にもならない。いやもっと悲惨になるだけである。不幸を受け入れるという気になると、何をしたら一番いいかということが、突然見えてくるというシーベリーの言葉は大変な言葉である。
 多くの人は事実としての悲惨さを受け入れまいとしているから、いよいよ傷を深くしていくし、そのうえ消耗して何をしたらいいか分からなくなる。そして最後には何をする気にもならなくなる。



あなたは傷つきやすい生き方をしていないか
くやしさの心理 (P.20-P.21)
(三笠書房)

 人間は、自分が自分のことをどう感じているかということによって、ものごとへの反応はいろいろと違ってくる。肉体的なことを考えればすぐわかる。病気の人と健康な人がいれば、それぞれすすめることが違う。三十九度の熱がある人に散歩してくることを誰もすすめないであろう。
 心理的にいえば、自分は価値がある、自分は他人に拒絶される存在ではない、自分は他人に受け入れられる、と感じつつ育った人、あるいはそんなことを意識することさえなく育った人が健康なのである。
 そうした意味で、「俺には俺の生き方がある」というのは大切なことだと思っている。ただそれにしても、「いかに生きるか」が「どうしたら傷つかないか」と同じでは退行的にすぎる。
 大切なことは、自分が自分をよく思えるようになることである。そのためにはやはり一度、自分は自分のことを悪く感じているという心の底の感じ方を正直に見つめることであろう。
 そのことを正直に見つめることさえできれば、自分は価値がないという感じ方は消えていく。しかし、その心の底の自分についての感じ方と直面することを避ければ、いつになっても自分についての否定的な感じ方は心の底にこびりついているであろう。
 他人が自分のことを悪く思うのが怖いのは、自分が自分のことを否定的に感じているからにすぎない。もし自分が自分のことを肯定的に感じることができさえすれば、他人が自分のことを悪く思っても、それによって傷つくことはないのである。
 もし自分が自分のことを肯定的に感じることができれば、他人に自分をよく印象づけようとする。神経質な努力で疲れることもなくなるであろう。また不安な緊張で身をかたくすることもなくなるであろう。



人にどうみられているかが気になってしかたない……
くやしさの心理 (P.26-P.27)
(三笠書房)

 偉そうにして虚勢をはっている者ほど、他人の批判で傷つくであろう。高慢な人間は、どんなに平静をよそおっても、批判されたら心の底では傷つく。高慢な人間は、心の底で自分を軽蔑しているからこそ、他人の自分への批判に過敏なのである。そして自分を批判するものを激しく憎む。
 虚栄心の強い人というのも同じであろう。他人を見くだし、自分の持っているものや、自分の地位を鼻にかけながら、他人が自分をどうみているかを気にかけ、そして他人の批判に過敏に反応する。
 おそらく虚栄心の強い美貌の夫人は、鏡を見て自分の美貌にうっとりし、一日に何度でも鏡を見るだろうし、なによりも自分の姿を見るのが好きだろう。あるいは自分の宝石を見るのが好きだろうし、社会的地位の高い自分の友人と話をするのも好きであろう。
 美貌の夫人は、周囲の人間からちやほやされていなければ自分がもたないのではないだろうか。この夫人の他人に対する関心とは、その人が自分にどのような反応を示すかということでしかない。つまり他人そのものにはなんの関心もない。彼女に関心があるのは自分だけである。
 湖に映る自分の姿に見とれるナルシスとは、じつは自分に自信のない美青年なのである。彼は湖に映る自分の姿を見ているようである。しかし、これは彼自身の目が彼の姿を見ているのではなく、他人はこんなにも自分を美しく見ているのではないだろうか、ということである。
 彼は彼自身の姿に見とれているのではなくて、他人の心の中に映った自分の姿に見とれているのである。自分はこんなにも美しく他人に映っていると思って酔っているのである。
 彼が酔っているのは、自分の心に映った自分ではない。彼が讃えているのは、自分の心に映った自分ではなく、他人の心に映った自分なのである。もっと言えば、彼は自分の心に映る自分ではなく、他人の心に映る自分しか関心がないのである。


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