15. 大切な人にも“ノー”が言えるか−心の健康を見分けるポイント(『「やさしさ」と「冷たさ」の心理』)

『「やさしさ」と「冷たさ」の心理』より

人間はどんなに相手が好きであっても、「こういうことはされたくない」ということがある。そんな時、相手に「ノー」と言えるからこそ、関係は維持されるのであろう。「いやだ」と言ってもお互いの関係はこわれないという信頼があればこそ、「いやだ」と言える。

心の不健康な人間というのは、相手が自分にとって大切になればなるほど、「ノー」と言えなくなってしまう。これは、心の健康、不健康を見分ける大切なポイントである。

心の不健康な人は、相手が自分にとって大切になると、その人なしでは生きていかれないような気持ちになる。そうなれば、見捨てられるのが恐い。かくて相手の期待通りに生きようとする。いよいよ自分は自分でなくなっていってしまう。

心の健康な人は、相手が自分にとってどんなに大切になってきても、その人なしでは生きていかれない、というようにはならない。その人は自分にとって大切である。その人と一緒にいる時間を大切にしようとする。その人とといると誰といるよりも楽しい。その人を力いっぱい大切にする。その人が好きで好きでたまらない。その人を信じている。しかし、そうであるにもかかわらず、その人なしでは生きていかれない、というようにはならない。

これは、理屈から言えばおかしい。おかしいけど、そうなるところに心の健康のゆえんがある。