心理的健康について 第50回 [2002/01/19]

第8章 神経症的自尊心(6)

 そう書いている私自身自分の心重が普通の心理的に健康な人よりも軽いと気がついたのは、かなり年をとってからである。若い頃、なんで自分は自分の人生に心から満足できないのかと疑問に思っていた。なんであの人はあんなに幸せなのかと不思議であった。
 そして心理的に健康な人は自分よりも心重が重いのだと知ったときには驚きであった。もともと心理的に健康な人は、自分と違って心が満足しているのだと知ったときには驚きであった。

 神経症的自尊心の強い学者は実際に自分が出来る研究をしようとするのではなく、皆が尊敬する大学者になろうとする。すると自分の出来る研究をしなくなる。自分の出来ることをしないで、自分の能力には高すぎることをしようとする。神経症的自尊心の強い作家は自分が書ける本を書かないで、皆が羨ましがる大作家のような本を書こうとする。
 自分の書ける論文を書かないで人の書いた論文を批判してばかりいる大学生がいる。そして学生のうちから大学者が書くような論文を書こうとする。そういう学生は普通の学生が書ける論文すらも書けない。高すぎる目的にこだわって自分の出来ることをしない。自分の入れる大学に入らないで、何時までも有名大学に入ろうとする受験生もいる。
 最近、日本での勉強について行けなくなったからアメリカの高校等に留学してくる高校生がいる。日本でついて行けなくなったといっても、日本で自分が期待する扱いを受けなくなったということに過ぎない。勉強そのものが理解出来なくなったというのではない。
 彼らは自己栄光化を維持するために日本を逃げ出したのである。まさにバイパスである。そして日本の高校生をけなす。けなすのはやはり羨ましいからである。
 そして語学の勉強で初級クラスに入った方がその人のためなのに、自分の実力を無視して上級クラスに行こうとする人もいる。神経症的自尊心の強い人は勉強の仕方も間違える。自己栄光化は神経症的自尊心で、弱さの象徴である。



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加藤諦三、加藤諦三研究室