心理的健康について 第78回 [2002/09/04]

第16章 真面目人間の挫折例(1)

第1節 き真面目な人の心の奥底にある憎悪と恨み

 彼女は五十九才、ご主人は六十三才。ご主人の愛人に子供が居たと言うことが分かった。愛人は会社の元の部下で今は五十一才になる。
 彼女は長いことそのことを知らずに居た、四、五年前に何となくおかしいと気がついた、そこで前からおかしいと感じていた女の家に電話したらお母さんが出て動揺していた。
 そこで彼女は何か大変なことがあるなと感じた。調べていくと会社に月に二、三回出ていないのが分かった。家を建ててくれて喜んでいたが、良く考えてみると、その女性のために家を建てたことも分かってきた。「間取りにしても何にしても私にも息子にも相談しない、新しく家を建ててその女性と一緒に住もう」ということだった。
 やがてご主人は愛人の持物を少しづつ家に運び込み始めた。同時に奥さんのものを少しづつ持ちだし始めた。
 「私のものを持ち出したり、いろいろと向こうの女性のものを持ち込んだり、やることがだんだんと頻繁になって、子供のものまで持ち出して、向こうの好みで買ったものを家に持ってきたり。」息子には愛人の買ったものを着せようとするのか息子の箪笥の引出しの中のものを入れ換える。
 ご主人の着ている下着が変る、日毎に嫌がらせは酷くなる。息子の引出しに女の下着を入れておいたり、彼女の引出しに女の着物が入り込んでいたりもした。「やることが小さいんだけれどもきついんです」
 息子の電話台の下に香典の袋が五枚重ねておいてある。こたつを一式買い求めたら椅子の裏側が刃物で四角に切られている。段ボールの箱に大きな釘がたくさん刺さっていた。「コアラの首に私のネックレスを巻き付けて部屋の隅に置いておいたり、ローソクをたててマッチ箱を置いておいたり、家の中に身ぶるいすることが多くなって、そういう恐ろしいことがたくさん出てきたんです。」
 それは全て愛人の指図によるようである。昔会社に居たときには、ご主人同様その愛人もき真面目な人であった。き真面目な人が物凄い憎悪と恨みを秘めていることがあると彼女に言うと「それなんですよ、同僚の人に相談しても信じてくれないんです」。彼女は四、五年苦しんできた。「この年になって離婚するのも,,」と渋っている。
 愛人と夫が会社で極めてき真面目であるのは、自分では気づかないが心の底に秘められている憎悪と恨みが表面に吹きでてくるのを押さえるためである。自然にしているとその恐ろしい憎悪が外に現われてきてしまうので、それから自分を守るために意識的に極端に真面目なのである。
 人は自分の中の不安や憎しみや葛藤や、それらを抑えようと必死で礼儀正しく振る舞うこともある。礼儀正しく振る舞うことで自分の心の中からそのような感情が噴き出して来るのを抑えているのである。礼儀正しさは防衛的性格である。そんな人は何か人前で下品な事を言ってしまいそうな不安を持っていることもある。それだけに余計意識的態度は真面目になる。



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加藤諦三、加藤諦三研究室